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2017.8.2

争族(相続)の落し穴 -第1回 タワーマンション購入の落し穴-

~相続に関する法制度と常識的な感覚,または,相続税法の取扱いとの相違等を中心とした相続に関する陥りがちな“誤り”に関する話題を中心としたコラムです~

弁護士  水谷 繁幸

第1回 タワーマンション購入の落し穴
 
 不動産業者の広告や経済雑等においてよく相続対策にタワーマンションの購入が効果的と謳われています。
 確かに,タワーマンションの購入は,相続税対策の観点では相応の効果を期待できるものです。しかし,この謳い文句を誤って理解し,ある相続人の遺留分価額を減少させるとの争族(相続)にかかる観点でも効果があるとお考えの相談者様も少なからずおられました。
 以下のとおり,遺留分価額との関係では左程の効果をもたない,また,予期せぬ結果に至ることもございますので注意が必要です。

第1 相続税法上の取り扱い
 相続税法上の観点による効果については広く認識されておりますが,タワーマンションとの関係では,次の2点の効果が指摘できます。
 第一は,不動産に関する相続の際の税法上の評価額が,市街地の土地について原則として路線価を基準とし,建物について固定資産税評価額を基準とするとされていることに関わります。少なくとも都市部では,路線価は公示価格の約80%で設定されていますし,固定資産税評価額も実勢価格(市場価格)に比して安価であることが通常であるとされているため,現預金よりも不動産とした方が相続税を抑えることができます。
 第二は,タワーマンション等敷地上に複数の専用部分(住戸部分)が存在する場合,土地の評価額については,その路線価による評価額に,その土地上建物のすべての床面積を分母,所有占有部分の床面積を分子として乗じた金額とされることに関わります。
 タワーマンションは所在階数が高い程,市場価格が高くなる傾向にありますが,占有床面積で土地評価額を案分する上記のような評価方法は,その所在階数にかかわらないものとされております(※)。
 結果,総階数が多く敷地面積に比して延べ床面積が多いタワーマンションの特に高層階では,市場価格と相続税法上の評価額に大きな差が生ずることが多く,相続税対策としてこのような不動産を購入することに一定の効果が期待できるといえます。

※但し,2018年以降に引渡しが行われる新築かつ高さ60mを超えるタワーマンション等は一定の補正率が適用されます。

第2 民法(遺産分割)上の取り扱い
 しかし,注意を有するのは,上記のような税法上の評価額と遺産分割や遺留分請求の際の基礎とされる評価額とは異なる点です。
 遺産分割に当たっては,相続開始時(被相続人の死亡時)における相続財産の時価をもって,財産評価がされますので,不動産でいえば実勢価格(市場価格)になります。
 例えば,A氏が1億円のマンションを購入し,長男Bに同マンションを相続させる遺言書を残していた事例を考えます。相続開始時に相続人が長男Bと次男Cだけ,相続財産は同マンションの他預金4000万円のみだったとします。
 マンションの相続税法上の評価が4000万円であったとしても,その時点で市場価格が1億2000万円であれば,遺留分算定の際の相続開始時の相続財産の価格が8000万円(不動産4000万円+預金4000万)ではなく,1億6000万円(不動産1億2000万円+預金4000万円)になります。次男Cの遺留分は相続財産の4分の1になりますので,他の修正要素等がなければ,この事例の場合は4000万円相当額となります。その結果,Cが遺留分請求をした場合,Bがマンションをすべて取得するためには,BはCに対し,4000万円の金銭の支払いをする必要があります。
 これに対して,Aがマンションを買わずに現金で保有して場合は,1億4000万円(現金1億円+預金4000万円)の4分の1で3500万円を支払えばよいことになりますので,マンションを購入していない場合より多くの支払いをBは要することになります。   

第3 まとめ
 以上のとおり,相続税評価額を大きく上回る実勢価格を持つマンションを購入することは,相続税対策としては相応の効果が期待できるものですが,遺留分価額を減ずるといった目的であれば効果を有するものではありません。逆に,現預金が僅少であったり相続税の負担などから,遺留分権者に価格賠償(代償金の支払い)をすることができず,予期に反して,不動産を手放さなければならない場合や遺留分権者が一部持ち分を取得し法律関係が複雑になる場合もありますので注意が必要です。

関連法規は2017年8月時点による