法務コラム
企業における広告・表示規制の概要について
1 企業の広告・表示に対する規制は、複雑多岐にわたっているため、企業の法務担当者の方々もお困りと思います。そこで、広告・表示規制の概要について解説したいと思います。
2 まず、消費者向けの広告・表示を一般的に業種に関わらず規制する法律として有名な景品表示法があります。その中でも、景品表示法5条は非常に重要な条文です。優良誤認表示(5条1号)、有利誤認表示(5条2号)のどちらかに該当すれば、不当表示としてその広告・表示が禁止されることになります。優良誤認表示は品質に対する不当な誤認を招くものを禁じ、有利誤認表示は取引条件(価格等)に対する不当な誤認を招くものを禁ずるものです。もっとも、この条文は、業種に関わらず適用することを想定して作られたものであるため、抽象的な規定ぶりとなっており、どのようなときにこれに該当するかの判断が難しいのです。そこで、消費者庁、公正取引委員会等が多くの指針やガイドラインを出しており、これらが法律同様に重要なものとなっています。
さらに、多くの業界では公正競争規約が定められており、この公正競争規約は消費者庁及び公正取引委員会の認定を受けたものであるため、実務上は、この規約の内容も、優良誤認表示及び有利誤認表示の要件該当性の判断にとってとても重要なものとなっています。企業の法務担当者は、これら多くの指針、ガイドライン、業界の自主的ルールである規約の内容にも目を通さなければいけません。
さらに、不当表示に対する制裁としては、表示の取りやめの措置命令(景品表示法8条1項)だけでなく、金銭的制裁である課徴金納付命令(同条2項)も課されます。この課徴金は、「課さなければならない」と規定されており、強力な制裁としての性格を持っています。これらの事情が、景品表示法上の不当表示への対応が企業にとって重要かつ難しいといえる理由と考えられます。
3 また、業界ごとの広告表示規制立法もなされており、これは、景品表示法とは両立するものであり、景品表示法に加えて業界ごとの表示規制立法にも企業の法務担当者は目を向けなければいけません。そして、当然、業界ごとに適用される法律は様々であり、その趣旨も多岐にわたっています。例えば、食品業界では、食品に対する国民の正当な表示への期待が大きく、食品表示法、健康増進法、薬機法等多くの法律による規制が行われています。食品表示法は、4条1項1号で、名称、アレルゲン、保存の方法、消費期限、原材料、添加物、栄養成分の量及び熱量、原産地その他食品関連事業者等を食品の販売をする際に表示されるべき事項として容器包装等に表示することを定めています。これは、消費者の合理的判断を助けようとするものであり、景品表示法と同様の趣旨によるものですが、積極的な表示を求めるところに景品表示法との違いがあります。健康増進法は、内閣総理大臣の許可を受けた食品以外は特定保健用食品との表示を禁止するといった内容のものであり、科学的根拠がある商品に対して消費者庁が一定のお墨付きを与えることで保護する制度といえます。
金融業界では、銀行法、同法施行規則、金融商品取引法、保険業法等の法律によって、預金契約、株式の委託売買契約、保険契約に関して表示しなければいけない事項が規定されています。ここでは、金利、預金保険の対象となるかどうか、手数料、リスク、みずからの資力または信用に関する事項等の明示が求められています。これらは、前述の食品表示法と同様に積極的な表示をすることを求め、消費者の判断を合理的ならしめようとしているものです。このように、景品表示法以外の様々な表示規制立法にも同様に対応しなくてはいけないことも、広告・表示規制への対応を難しいものとしています。
4 こうしてみると、企業の広告・表示の問題は、景品表示法により、消費者を惑わすような表示を制限し、消費者が不合理な判断に陥らないようにした上で、業界ごとの法律によって積極的な表示を促し、消費者の合理的な判断を可能にするという形での整理、理解が可能であると思われます。このような理解に基づき、消費者庁、公正取引委員会の発表する指針、ガイドライン、各業界団体の取り決めた公正競争規約にも習熟することが、広告・表示の問題に関して企業の法務担当者に求められることと思われます。
しかし、例えば、景品表示法5条の優良誤認表示(5条1号)、有利誤認表示(5条2号)の問題だけでも、その解釈には、前述した政府の発表する指針、ガイドライン、各業界団体の取り決めた公正競争規約だけでなく、その業界にとっては重要であるが広告・表示とは一見無関係な法律の定義、別趣旨のガイドライン等も関係してくることがあります。例えば、生クリーム、純米酒という名称が商品名に入っていた場合、生クリームの定義、純米酒の定義がまず問題になります。生クリームの定義は、厚生労働省の省令によるし、純米酒の定義は国税庁の定義による場合があります。実際の商品に入っていた成分がこの定義の内容と整合するかによって、優良誤認表示であるか判定がなされることになります。このように景品表示法の優良誤認表示であるかというだけでも思いもよらない関連法令まで関係してくるのです。
5 簡単にではありますが、広告・表示規制の概要について説明をいたしました。このような原則論では対応できないことも多々あるかと思われますので、個別のことはぜひともご相談いただければと思います。